変更登記の実務|商号・目的

有限会社を株式会社にする|チャートで分かる、移行するとき・しなくてよいとき

取引先に「まだ有限会社ですか」と言われました

父から継いだ有限会社です。先日、新しい取引先の担当者に「まだ有限会社なんですね」と言われて、少し気になりました。株式会社に変えられると聞いたのですが、どれくらい手間とお金がかかるものでしょうか。

増えるのは毎年の義務です。登記は2件で終わります

株主総会で、商号のなかの「有限会社」を「株式会社」に変えます。登記は、株式会社の設立の登記と、特例有限会社の解散の登記を同時に出します。法務局の記載例にも「同時に行う必要があります」と書かれています。会社はそのまま続き、登記が終われば移行も終わりです。

期限は決議の日の翌日から2週間です(整備法46条)。登録免許税は設立分と解散分で合わせて6万円から。解散の登記のほうには、添付書類が1枚も要りません。

重いのはそのあとです。株式会社になると毎年の決算公告(会社法440条1項)と、任期ごとの重任の登記が始まります。どちらも有限会社には無かったものです。12年登記がなければ、みなし解散の対象にもなります。

そして、有限会社には戻せません。株式会社から特例有限会社になる手続きは、会社法にも整備法にもありません。取引先の一言で決めずに、先の分まで見てから決めていただきます(有限会社の役員変更)。

移行したあとの登記簿は、こう書かれます

設立の登記といっても、会社が新しく生まれるわけではありません。登記簿には、昔の成立の日がそのまま載ります。

架空の登記例移行したあとの株式会社の登記簿

昭和55年に設立された有限会社A野商事が、令和8年10月12日に株式会社A野商事へ移行した場合です。

会社の基本事項

登記事項内容
商号株式会社A野商事
会社成立の年月日昭和55年6月10日
登記記録に関する事項令和8年10月12日有限会社A野商事を商号変更し、移行したことにより設立

役員に関する事項

資格・氏名(代表取締役は住所も)登記年月日
取締役 A野 B男令和8年10月12日登記
埼玉県さいたま市浦和区常盤○丁目○番○号 代表取締役 A野 B男令和8年10月12日登記
会社成立の年月日は昭和55年のままです。社歴が途切れることはありません。役員のほうは逆になり、取締役の住所が登記されなくなって、代表取締役の住所が載ります。

先に決めていただくことが、3つあります。

  • 取締役の任期を、定款に何年と書くか株式会社の取締役の任期は原則2年です。新しい定款で株式に譲渡制限を付けて非公開会社にすれば、最長10年まで伸ばせます(会社法332条2項)。10年にする会社が多いところです。
  • 決算公告を、どこに載せるか公告の方法を官報にしている会社でも、貸借対照表の内容を自社のウェブサイトに5年間載せておけば、官報に出さなくて済みます(会社法440条3項)。毎年の掲載料がかかりません。この方法をとるときは、そのページのアドレスも登記します(会社法911条3項26号)。あとから変えると登記のやり直しになるため、先に決めておきます。
  • 移行の総会で、取締役を選び直すことになるか有限会社には任期がありません。移行すると任期が始まり、新しい定款で決めた年数を、いつ選ばれたかによってはもう過ぎていることがあります。そのときは同じ総会で選び直します。法務局の記載例も、商号を変える議案と取締役を選ぶ議案を並べた形です。新しく取締役になる方は印鑑証明書、新しく監査役になる方は住民票の写しや運転免許証のコピーを添えます。顔ぶれが変わらないなら、どちらも要りません。

移行すると、何が変わるのか

有限会社を株式会社にするときの流れ図。有限会社のままではできないことがあるか、増える義務を引き受けるかで分かれる
急いで決める手続きではありません。あとから引き返せないので、増える分を先にお伝えします。
有限会社のまま株式会社にしたあと
取締役の任期法律では定めず、定款によります原則2年。非公開会社は定款で最長10年まで
任期が来たときの登記ありません重任の登記をします
決算公告義務がありません毎年します(会社法440条1項)
みなし解散対象になりません12年登記がなければ対象になります
代表者の住所を伏せる扱い使えません使えます
取締役会置けません置けます
合併で受け入れる側・会社分割で引き継ぐ側なれませんなれます
株式交換・株式移転・株式交付できませんできます
元に戻す—戻せません

代表者の自宅が本店という会社では、住所を伏せる扱いが使えるかどうかが効いてきます。特例有限会社はこの扱いの対象外だと通達に書かれているので、使いたければ移行することになります(代表取締役の住所を非表示にする)。

登記の事由には決議の日、登記記録に関する事項には申請の日を書きます。1通の申請書で年月日が2つになる、めずらしい登記です。移行の効力は登記によって生じるため(整備法45条2項)、申請した日が株式会社になった日です。郵送で出すと申請日を決められないので、解散のほうの年月日は書きません。
質問に答えてください

うちの会社は移行したほうがよいか、選んで確かめる

いまの会社でやりたいことと、引き受けられる義務で決まります。

株式会社にしたい理由は、どれに近いですか

5とおりの答えを、まとめて見る

取引先や採用のときの見え方引き受ける

移行できます

  • 定款の写し(お手元にあれば)
  • 株主の氏名・住所・持ち株数
  • 移行後の取締役の任期を何年にするか
  • 決算公告をどこに載せるか
  • 会社の実印(設立の登記なので、印鑑届書を出し直します)

定款は全部作り直します。社員・出資一口といった古い言葉が残っていて、そのままでは使えません。定款の案はこちらで作成します。総会では、商号を変える議案と取締役を選ぶ議案を一緒に決めていただきます。

取引先や採用のときの見え方迷っている

決める前に、増えるほうをお伝えします

  • 登記事項証明書(当事務所で手配します)
  • 定款の写し(お手元にあれば)

有限会社のままでいることに期限はありません。一度きりの手続きなので、増える義務を先にお伝えしたうえで決めていただきます。

取締役会を置きたい

取締役会を置くなら、移行してからです

  • 定款の写し(お手元にあれば)
  • 取締役会に入る方の氏名
  • 株主の氏名・住所・持ち株数

特例有限会社には取締役会を置けません(整備法17条)。取締役会を置くなら、移行と同時に設置します。監査役を置くかどうかも一緒に決めます。

よその会社を迎え入れたい

組織再編の前に、移行を済ませます

  • 定款の写し(お手元にあれば)
  • 相手の会社の登記事項証明書
  • いつまでに終わらせたいか

特例有限会社は、吸収合併で受け入れる側にも、会社分割で引き継ぐ側にもなれません(整備法37条)。株式交換・株式移転・株式交付もできません(整備法38条)。先に移行を済ませてから、組織再編の日程を組みます。

代表者の住所を伏せたい

住所を伏せるには、移行が要ります

  • 定款の写し(お手元にあれば)
  • 代表者の住所
  • 本店が実在することの分かるもの

特例有限会社は住所を伏せる扱いの対象外です。移行の設立の登記と一緒に申し出れば、最初から伏せた形で登記簿が作られます。添付するものが増えるので、先にそろえます。

  • 移行する日は会社が選べます。登記を申請した日が、株式会社になった日です。

定款・議事録・申請書は、当事務所で作成します。

最初に、いただきたいもの

考えはじめた時点で、次の3つをお知らせください。決まっていないところは、決まっていないままで結構です。

  • 会社の商号と本店登記事項証明書は当事務所で手配します。資本金の額が分かると、登録免許税の見当が付きます。
  • 株主の氏名・住所・持ち株数特別決議が要る手続きで、総株主の半数以上が賛成し、しかもその賛成が総株主の議決権の4分の3以上であることが必要です(整備法14条3項)。株式会社より重いので、先に数を当たります。
  • いつまでに株式会社になりたいか登記を申請した日が移行の日になります。決算期や取引先への案内の都合があれば、それに合わせて逆算します。

司法書士から、ひとこと

執筆・監修者の小野田敦士

小野田 敦士

  • 司法書士
  • 行政書士
  • 宅地建物取引士

「有限会社だと信用されないのでは」というご相談は多いです。移行そのものは2件の登記で終わりますが、そのあと毎年の公告と任期ごとの登記が始まって、元には戻せません。決める前に一度ご相談ください。

移行は商号が変わる手続きでもあります。許認可の届出、銀行の口座、看板や名刺の入れ替えは、ふつうの社名変更と同じだけあります。手間としてはこちらが大きいので、順番を決めてから動きます(社名を変える)。

この件のご相談

この場面で、当事務所ができること

  • 移行すると何が増えるかをお伝えし、決めていただく材料をそろえます
  • 定款を全部作り直し、株主総会議事録と2件の申請書を作成します
  • 登記が終わったら、届出先の一覧と登記事項証明書をお渡しします
変わったこと・変えたいこと
「役員の任期が切れていた」「本店を移す」など、ひとことで構いません。
その時期
すでに変わった日、またはこれから変える予定の時期。見込みで構いません。
本店のある市区町村
管轄の法務局を確認するためです。会社名は最初のご連絡では不要です。

移行しないほうがよいという見立てになれば、そのままお伝えします。

この件を相談する受付 10:00〜19:00/見積もりは無料です。会社名・個人名は最初のご連絡では不要です。「商号・目的の変更」で引き受けることを見る

有限会社から株式会社への移行について、よくある質問

会社の社歴は途切れますか?

途切れません。登記簿の「会社成立の年月日」には、有限会社を設立した日がそのまま載ります。設立の登記という名前が付いていますが、新しい会社が生まれるわけではありません。決算期も、取引先との契約も、そのまま続きます。

登録免許税はいくらですか?

設立の登記の登録免許税は、資本金の額の1000分の1.5です。計算した額が3万円に満たないときは、登録免許税は3万円になります。移行の前の資本金を超える部分だけ、登録免許税が1000分の7です。解散の登記の登録免許税は1件につき3万円で、資本金が2000万円までの会社なら、登録免許税は合わせて6万円で収まります。

株式会社にしたあと、有限会社に戻せますか?

戻せません。特例有限会社は、会社法が施行されたときに現にあった有限会社だけに認められた形です。新しく作ることも、戻ることもできません。移行する前に、増える義務のほうを確かめてから決めてください。

移行と同時に、本店も移せますか?

移せます。ただし本店移転は移行とは別の申請になるので、登録免許税も別にかかります。管轄の法務局が変わるかどうかで手順も変わるため、どちらを先にするかを決めてから進めます(本店を移転する)。役員の変更や目的の変更なら、移行の設立の登記にまとめられます。

この記事に出てくる言葉

この記事は、一般的な株式会社(非公開会社)を想定した説明です。必要な書類や手続は、定款の定め・機関の構成・株主の状況によって変わります。実際の手続では、担当する司法書士にご確認ください。